人気ブログランキング | 話題のタグを見る

財政の崖 と 一般教書演説 #1

財政の崖 と 一般教書演説 #1_d0174695_4312359.jpg
 今、アメリカで最も大きい話題になっているのは、スポーツでも芸能でもなく、金融・経済・景気に関する内政です。上の写真は今月12日に発表された、オバマ大統領による State of the Union Address (一般教書演説) の様子。今回のブログでは、柄にもなく、少し難しい話題について書いてみたいと思います。そして、自分自身、アメリカの研究環境に身を投じていることもあって、その内政が影響する研究資金情勢についても触れてみたいと思います。今回は長いので2つに分けて、忙しい毎日を送る中ちょっとずつ溜まっていたニュースを集めて記事にしてみました。

 



 まず上の写真で紹介されている、一般教書演説とは何か? という事ですが、アメリカ大統領が国の現状と今後の政治課題を説明するスピーチで、日本の総理大臣の所信表明演説と近いものがあります。ただ、アメリカ大統領は、総理大臣と違って、政治面も含めていろいろな局面で非常に強いダイレクトな権限を持つことが許されているので、アメリカ国民が受ける 一般教書演説のインパクトは強烈なようです。
 いつもABCテレビをつけっ放しなのですが、夜のニュースを見ていたら、いつもは陽気なニュースキャスター全員が深刻な表情、その翌朝のGood Morning America (日本で言うめざましテレビみたいな番組)も不穏な空気で進行していました。それくらい、アメリカ国民にとって先行きが怖い深刻な問題ということが伝わってきました。
財政の崖 と 一般教書演説 #1_d0174695_4193130.jpg オバマ大統領の演説は約1時間にも及び、増税と予算自動削減の同時危機、中間層の成長・発展、高齢富裕層の医療保険制度の改正、中小企業の税制改革、雇用・最低賃金、環境問題、移民法、アフガニスタン、インフラ整備、そして銃規制強化に関する説明でした。
 この中でいま一番関心が高いのが、「財政の崖」 に関連した増税と予算自動削減への懸念です。
 「財政の崖」 は、年末年始に話題になり、知っている方も多いと思いますが、簡単に言うと 'ブッシュ減税' が2012年12月31日に期限が切れて 翌2013年1月1日から自動的に増税されること、加えて、アメリカ政府の財政赤字をこれ以上増やさないようにと1年半前から決めていた '予算削減案' が 2013年1月2日から強制的に施行されて全予算が沈下していくこと、この2つが年越し直後にダブルパンチで起きてしまうと、崖から落ちるようにアメリカの景気が悪化する深刻な事態を例えた言葉です。
注) ブッシュ減税もともとはブッシュ政権時代の減税案だが、リーマンショックに対向するためオバマ大統領によっても署名・継続された所得税の減税案
予算(歳出)削減…ブッシュ減税が原因で生じたアメリカ財政赤字 を立て直そうと、2008年に合意された予算カット方針


 ブッシュ減税を廃止して増税(特に所得税を増税)した場合、個人年収の落ち込みがきっかけで家庭からの出費が消極的になります。同時に、国の予算を削った場合、仕事の規模や数の縮小がきっかけで市場が脆弱になり雇用が減って、それが個人所得の低迷に繋がることで 結局は個人(家庭からの)出費が停滞するという、ネガティブスパイラルに陥ってしまいます。普通、どこの国でも、お金が市場や家庭の中を回ることで、国全体が利益を生み出していく仕組みなので、この財政の崖がアメリカ経済を衰退させる脅威は、本当に世界が注目していました。

 財政の崖 と 一般教書演説 #1_d0174695_8341033.jpg 昨年末、その財政の崖のブレイクスルーを探すべく、年越しをまたいで 'pre-dawn votes (夜明け前投票)' が行われたことは記憶に新しいと思います。今回の年越しはアメリカで過ごしていたのですが、その前後でニュースや新聞では "pre-dawn votes" という言葉が何回も見出しになっていました。 結果的には、民主・共和合意でギリギリで財政の崖を回避したのですが、その内容は、
 1) 一部のめちゃめちゃ稼ぐ高額所得者を除いて、ブッシュ減税延長(今のところ無期限)
 2) 予算(歳出)削減は、2ヶ月間(2月末まで) 猶予
という結論で、ひとまず崖から転落せずに済んだようです。1) についてはオバマ大統領が目指す中間層の成長が期待できればいいなという印象ですが、2) については、単なる先送り? 打開案は無かったんだな…という印象です。これは結局、2ヶ月後までに新たな財政赤字回避策を考えなければ、再び景気転落の危機が訪れることを示しています。
 日本ではあまり話題になっていないと思いますが、アメリカではこれを第二の財政の崖 と呼んで連日ニュースになっています。このブログを書いている間にも、もう明日明日の事になっていますね。。。
 2) に関しては、なぜ2ヶ月間だけなのか?という疑問がありますが、今まで上乗せしてきたアメリカ政府の借金(国債)の額が、このまま予算減額せずにいると、残り2カ月以内に、連邦法で決められた借金の上限に達して新たな借金発行が出来なくなるため、とされています。つまり、借金しながら予算を組んできたのですが、今の借金ペースが続くとアメリカの財政体力が今年2月末までしか持たず、自ずと借金返済のために予算減額を強いられるといった状態です。
 また、自然と、3月以降どうするのか?という話になると思いますが、オバマ大統領の一般教書演説では、まもなく訪れる予算削減について懸念していたものの具体案については言及されず、対応が行き詰っていると共和党から批判されていました。これもまた期限切れのギリギリになって激論が交わされる問題なのだろうと思います。おそらく3月は連邦法を変えてでも、借金(国債)の上限額を引き上げるなど、裏でいろいろシナリオが動くのかも知れませんが、ニュースを見ている限りアメリカ国民がハラハラしている様子が伝わってきます。

ところで(少し脇道にそれますが)、、、
財政の崖 と 一般教書演説 #1_d0174695_1728110.jpg
財政の崖 と 一般教書演説 #1_d0174695_620841.jpg
 昨年11月初旬の大統領選(オバマ vs. ロムニー)では、ほとんど、財政の崖に関する遊説がされていませんでした。なぜこんな大事な問題を話題にしなかったの?と思いますが、たぶんお互いに 皆が納得する政策も無く、話しても国民の不安をあおるだけのネガティブ演説でイメージダウンになるので、知っていながら敢えて話さなかったのでは、、、と何となく想像しています(苦笑)。
 そして、なぜ、オバマ大統領が多くの国民に支持されて再選したのにも関わらず、ここまでオバマ大統領を抱える民主党と共和党の話し合いがもつれるかと言えば、上院(民主党優位)と下院(共和党優位)のねじれが大きな原因になっています。一説では、夜明け前投票の間、グレーゾーンの合意案を嫌がるシロクロはっきりさせたい共和党員の反発が、ぎりぎりまで話し合いを長期化させたとも言われています。そういえば、、、オバマ大統領の今回の一般教書演説では、一期目当選時の "Yes, we can!" でもなく、二期目当選時の "Forward!" でもなく、"Together" という言葉遣いがニュースで取り上げられていたのが印象的でした。民主・共和ともに確執なくこの困難を乗り越えて行こうという気持ちが強く表わされていると思いますが、裏を返せば、ホワイトハウスを取り巻く共和党の圧力が凄いんだろうなとも伺えました。まだまだロムニー支持の共和党員が下院にも上院にも根強く蔓延っているそうです。
 そしてこれからしばらくずっとねじれの政治が続くのかと思うと、アメリカの内政って年中ディベートの嵐だなと感じてしまいます。。。

 少し話が大統領選にそれてしまいましたが、当面の懸念は、3月以降、もし本当に様々な分野で予算削減が実現した場合、色々な場面で影響が出ることです。しかもこれはゆっくりと出てくる影響なので、いま一時的な話題だとしても、時間経過とともに意識が薄れて行く間に、生活や雇用の様子が変わってくると予想されています。
 自分自身、特に仕事面では全てをアメリカに依存させているので、この話題は暇を見つけて注目していけたらと思っています。おそらく生活費を今すぐに切り詰めるとかいう心配はする必要がなく、時間が経たないと、このニュースの大きさは見えてこないとは思っていますが。。。
 いまは、民主党 vs. 共和党 のニュースが主だっていて、実際の生活に影響が出るまで時差があると思いますが、次のブログでは のちのち影響が心配される 研究・医療について具体的な数字を出して書いてみたいと思います。

財政の崖 と 一般教書演説 #2 に続く

以上の記事は、Natureという一流科学誌、インターネット、こちらのテレビニュースに基づいて書いたものです(個人的な主観も入っています)が、タイムラグで、パーセンテージや金額の値は多少変遷していくかも知れませんので、その点についてはご容赦くださいm(__)m
by ashimayu27 | 2013-02-27 17:44 | 仕事のこと